マドリッド協定議定書
マドリッド協定議定書による商標の国際登録出願
商標の国際登録に関するマドリッド協定についての議定書(マドリッドプロトコル、以下「議定書」)による出願ルートのメリットとして、
@一度の出願で複数国の商標権の取得が可能となります。
A商標権の維持管理が容易となります。即ち、同一の複数指定国における存続期間の更新が、国際事務局に対する一回の手続きで可能となるため、各区に別の権利の管理負担が軽減されます。
B上記に伴い、コスト削減の低廉化が可能となります。
本国官庁(日本国)における手続きの基本フロー
議定書の主旨
この議定書は、商標について、世界知的所有権機関(国連の専門機関の1つ、本部スイス・ジュネーブ、略称「WIPO」)の国際事務局が管理する国際商標登録簿に国際登録することにより、議定書に加盟している各締約国において、その商標保護を確保することができることを内容とする条約です。
経緯
議定書は、1891年4月に制定されたマドリッド協定における問題点を克服し、より多くの国が参加できるような商標の国際登録制度を確立することを目的に、マドリッド協定とは独立した条約として、1989年6月に採択されたものです。日本国では、平成12年3月14日に議定書が発効しました。
制度の骨子
締約国の官庁(本国官庁)に、商標を出願しまたは商標登録している名義人は、その出願または登録を基礎として、保護を求める締約国を指定し(指定国)、本国官庁を通じて国際事務局に国際登録出願をして、同事務局が維持管理する国際登録簿にその商標が登録された場合、その指定国において一定の条件を満たす事により商標の保護を確保することができます。
国際登録出願の手続
締約国である本国官庁、即ち日本国の特許庁に出願または登録されている商標を基礎(基礎出願または基礎登録)として、その商標の保護を希望する締約国(指定国)を明示(指定)して、WIPO国際事務局に特許庁経由で出願します。
国際登録出願は、国際登録出願の願書を特許庁に提出することにより行います。そして、この国際登録出願を特許庁が受理した日が、原則として国際登録日になります。
国際事務局は、国際登録出願の方式審査をした後に、出願された商標を国際登録簿に国際登録します。国際登録された商標は、国際事務局が隔週で発行する国際標章に関するWIPO公報(以下、「公報」という。)により国際公表されます。
国際登録の後、国際事務局が通報した指定国官庁が、保護を拒絶する旨の通知を一定期間(1年または各国の宣言により18ヶ月)内に国際事務局に対して行わない場合、商標の国際登録の日または領域指定の記録の日から、その商標が指定国官庁において、当該官庁による登録を受けていたならば与えられたであろう保護と同一の保護が与えられることになります。
@基礎出願とは、「日本国特許庁へすでに出願された商標」を、また基礎登録とは、「日本国特許庁へすでに登録された商標」を、それぞれ指します。従って、国際登録出願をするには、特許庁にあらかじめ商標を出願しておくかあるいは登録された商標が必要となります。そして、国際登録出願に係る商標は、これらの基礎出願または基礎登録の商標と同一のものでなければなりません。また、指定する商品・役務については、基礎出願または基礎登録のものと同一かまたは、基礎出願または基礎登録における範囲の中に含まれることが必要です。
A国際登録出願を出願できる人は、日本国民、日本国内に住所または居所(法人にあっては、営業所)を有する外国人、特許庁に継続している自己の商標登録出願または防護標章出願、若しくは自己の商標登録または防護標章登録を有する人です。
B国際登録出願は、上記した出願人の資格を有する人であれば、所定の書類を特許庁に提出することにより出願人自らが手続きすることができます。また、国内商標出願と同様に、弁理士等の専門の知識を有する者に依頼して行うこともできます。出願書類は、日本語ではなく英語で作成しなければなりません。出願を弁理士等に依頼する場合、委任状を提出する必要はありません。出願書類用紙は、特許庁やWIPOのウェブサイトから入手することができます。
C国際登録日は、国際登録出願を受理した日から2ヶ月以内に国際事務局がその国際登録出願を受理した場合に限り、特許庁が受理した日が国際登録日となります。国際事務局が2ヶ月以内に受理しなかった場合は、国際事務局が受理した日が国際登録日となります。なお、特許庁が受理した日とは、特許庁に願書を持参して直接出願を行った場合には、その持参した日となり、願書を郵送した場合には願書が特許庁に到達した日となります。
D指定国によっては、実体審査や登録後の異議申立等により登録が拒絶される場合があります。このような場合には保護を拒絶する旨の通知が指定国官庁から出され、出願人は指定官庁に対してその拒絶通知における理由を克服することにより、その指定国官庁において保護を得ることができます。この場合、各指定国により法制が異なりますので、拒絶通知に対する得る応答は、各指定国における専門知識を有する弁理士等を代理人として手続きすることが、登録までの経費と時間の節約になると思われます。
E公報は、WIPOのホームページで見ることができます。国際登録出願に際して、類似の商標が存在するかどうか調査する場合等に利用できます。
F国際登録出願においては、「セントラルアタック」と呼ばれる特別な制度があります。セントラルアタックは、国際登録の日から5年の期間が満了する前に、基礎出願または基礎登録が取下げられ、消滅、放棄、または、確定的な決定により拒絶、抹消、取消若しくは無効となった場合において、指定されている商品・役務の全部または一部についてその国際登録そのものが取り消され、この結果、各指定国ににおける商標権も同時にその効力を失う、という内容です。これを、「国際登録の従属性」と言います。
セントラルアタックは、国際登録の日から5年の期間が満了する前に、不服、取下、抹消、取消、無効、異議等の手続きが開始されており、5年経過後に、基礎出願、基礎出願による登録または基礎登録の効力を失うことの決定が下された場合も、商標権の効力を失うことになります。つまり、5年の期間が満了するときに上記の手続きが継続中であれば、期間満了後に決定が下されることにより国際登録が取り消されるおそれがあります。
翻って、国際登録から5年が経過した暁には、その国際登録は、基礎出願、基礎出願による登録または基礎登録から独立したものとなります。これを、「国際登録の独立性」と言います。
拒絶の通報を受けた場合の対応
指定国によっては実体審査を実施しており(日本国もそうです)、その審査において商標登録を認めないと判断した指定国の特許庁が発する拒絶の通報を国際事務局から受ける場合があります。
このような場合には、その指定国単位で対応をしなければなりません。拒絶の通報への対応は、指定国各国の判断基準が関係するため、対応内容の決定にあたってその指定国の弁理士等(現地代理人)を経由するとともに、適切なアドバイスを受けた後にされるのがよいと思われます。
拒絶の通報の内容の主なものとしては、
(a)識別力がない
(b)先行する他人の商標と同一または類似する
等があります。
事後指定
国際登録後に、指定国(但し、議定書加盟国に限る)を追加する必要が生じた場合に、行うことができる手続です。事後指定では、指定国の追加の他、国際登録に係る商品・役務の範囲内で指定商品・役務の追加をすることも可能です。
事後指定の手続は、「国際登録後の事後指定」書類を、本国官庁または国際事務局に提出することにより行います。これを受けた国際事務局は、方式審査を行った後、国際登録簿に事後指定を記録します。
事後指定日は、国際事務局に直接手続きを行った場合には、国際事務局がその事後指定を受理した日となります。この事後指定日は、各指定国における出願日として取り扱われます。なお、本国官庁、即ち特許庁経由で事後指定を行った場合には、特許庁の受理日から2ヶ月以内に国際事務局が事後指定を受理した場合に限り、特許庁の受理日が事後指定日となります。
存続期間及びその更新
各指定国における国際登録の存続期間は、各指定国における審査の状況にかかわらず、国際登録日から10年です。事後指定を行った場合であっても、その存続期間は事後指定日からではなく元の国際登録日を基準として10年となります。
国際登録の存続期間は更新することができ、指定国毎に更新を申請する必要はありません。更新手続きは、本国官庁または国際事務局に対して直接行います。
国際登録は、所定の手数料のみを支払うことにより、存続期間の満了から、さらに10年の期間にわたって更新することができます。更新の手続きは、国際登録の満了前であればいつでも可能です。
更新に際しては、更新手数料を納付しなければなりません。ちなみに、この更新手数料が満了日の3ヶ月前以前に納付され、その後満了日までの間に更新手数料の値上げがあった場合には、その差額を追納しないと更新が認められません。
また、更新手数料を納付することなく満了日が経過してしまったとしても、満了日経過から6ヶ月以内であれば、割増料金を納付することにより更新することができます。
手数料の納付
国際登録出願、事後の手続、国際登録の更新の際に発生する費用は、スイスフランにより国際事務局に支払う必要があります。
議定書加盟国の一覧(2024年8月現在)
英国(ガーンジーは英国とは別途指定要)、スウェーデン、スペイン、中国(香港・マカオ未適用)、キューバ、デンマーク、ドイツ、ノルウェー、フィンランド、チェコ、モナコ、北朝鮮、ポーランド、ポルトガル、アイスランド、スイス、ロシア、スロバキア、ハンガリー、フランス、リトアニア、モルドバ、セルビア(セルビア・モンテネグロを継承)、スロベニア、リヒテンシュタイン、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク(オランダ、ベルギー、ルクセンブルクへの出願はベネルクス(BX)の指定となる)、ケニア、ルーマニア、ジョージア、モザンビーク、エストニア、エスワティニ、トルコ、レソト、オーストリア、トルクメニスタン、モロッコ、シエラレオネ、ラトビア、日本、アンティグア・バーブーダ、イタリア、ブータン、ギリシャ、アルメニア、シンガポール、ウクライナ、モンゴル、オーストラリア、ブルガリア、アイルランド、ザンビア、ベラルーシ、北マケドニア、韓国、アルバニア、米国、キプロス、イラン、クロアチア、キルギス、ナミビア、シリア、欧州連合知的財産庁(EUIPO)、バーレーン、ベトナム、ボツワナ、ウズベキスタン、モンテネグロ、アゼルバイジャン、サンマリノ、オマーン、マダガスカル、ガーナ、サントメ・プリンシペ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、エジプト、リベリア、スーダン、イスラエル、カザフスタン、タジキスタン、フィリピン、コロンビア、ニュージーランド(トケラウ諸島未適用)、メキシコ、インド、ルワンダ、チュニジア、アフリカ知的所有権機関(OAPI)、ジンバブエ、カンボジア、アルジェリア、ガンビア、ラオス、ブルネイ、タイ、インドネシア、アフガニスタン、マラウイ、サモア、カナダ、ブラジル、マレーシア、トリニダード・トバゴ、パキスタン、アラブ首長国連邦、ジャマイカ、チリ、カーボベルデ、ベリーズ、モーリシャス、カタール、以上の国または領域。