意匠制度の概要


意匠

 意匠法の保護対象は意匠です。意匠とは、
 1)物品または物品の部分の形状等(「形状等」とは、形状、模様、色彩またはこれらの結合のこと)
 2)建築物または建築物の部分の形状等
 3)画像または画像の部分
 4)組物の意匠:同時に使用される二以上の物品、建築物または画像から構成される組物(意匠法施行規則の別表に定められたものに限る)の意匠であり、組物全体として統一があるもの
 5)内装(「内装」とは、内部の設備及び装飾のこと)の意匠:店舗、事務所その他の施設の内部に配される物品、建築物または画像から構成される内装の意匠であり、内装全体として統一的な美感を起こさせるもの
のうちの何れかに該当し、視覚を通じて美観を起こさせるものを言います。
 物品等の全体の意匠は無論のこと、物品等の一部分の意匠であっても、意匠権を取得して意匠法の保護を受けることが可能です。
 液体及び気体は、保形性を有していないため、意匠法による保護を受けられません。よって、例えば、複数の色の層を形成するカクテルドリンク等を意匠登録出願したとしても、意匠権を取得することはできません。
 伝統的には、意匠法により保護されるのは有体物の動産の意匠のみでした。が、近年の法改正により、不動産である建築物の外観や内装、ディスプレイに表示されまたは壁面、床面、路面等に投影される画像にも、保護の対象が広げられました。特許庁のウェブサイトに、これら新たな保護対象の意匠の登録事例が紹介されております。
 画像(または、画像の部分)に関する留意点として、例えば映画やゲーム等のコンテンツの画像については、意匠法による保護を受けられません。画像自体の意匠であれば、機器の操作の用に供される画像であるか、機器がその機能を発揮した結果として表示される画像である場合に限り、意匠法による保護を受けられます。

操作画像に該当する画像の例

表示画像に該当する画像の例

※特許庁意匠審査基準(令和5年3月)から一部抜粋

 物品または建築物の一部分に表示される画像であれば、その画像を表示する物品または建築物の機能を発揮できる状態にするための操作の用に供されるものであるか、画像を表示する物品または建築物の機能を果たすために必要な表示を行うものである場合に限り、意匠法による保護を受けられます。

操作画像に該当する画像の例

表示画像に該当する画像の例

※特許庁意匠審査基準(令和5年3月)から一部抜粋

意匠法の目的

 意匠法の目的は、意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、以て産業の発展に寄与することです。
 意匠制度には、これまでにない斬新な意匠を創作した者に報奨を与える「意匠特許(design patent)」の側面、優れた意匠の採用を通じて市場における需要を喚起する側面、並びに、意匠が持つ識別性によって製品の出所を明らかにする(製造販売者の業務上の信用を保護するとともに消費者利益をも保護する)という側面があります。

デザインにまつわる様々な権利・法律

※特許庁「意匠権」パンフレット(平成21年2月)から一部抜粋

意匠権

 意匠権者は、業(非営利目的の事業を含む)として登録意匠(意匠登録を受けた意匠)及びこれに類似した意匠を実施する権利を専有します。そして、意匠権を侵害する者に対し、販売その他の侵害行為の差し止めや、侵害行為に起因して発生した損害の賠償等を請求することができます。
 意匠権者は、登録意匠を実施する権利を他者に許諾(ライセンス)することもできます。
 意匠権は他者に譲渡でき、質権設定の対象ともなり得ます。

調和

 意匠法は、工業デザインについて有限期間の排他的独占を認める法であり、自由市場経済の原則に穴を開けるものです。それゆえ、意匠法によって招かれた過剰な保護が、却って産業の発展を妨げてしまうおそれが常にあります。
 意匠法には、保護に値しない意匠が意匠登録されないようにする仕組みが備わっています。即ち、意匠登録を受けようとする者は、意匠を表した図面、写真、ひな形または見本を提出する出願手続を行わねばなりません。しかも、その意匠登録出願が特許庁における審査を通過してはじめて意匠権が付与されます。

意匠に係る物品

 意匠法上の意匠とは、形状等(形状、模様、色彩またはこれらの結合)そのものではなく、物品とその形状等とが一体不可分に結びついた概念を指します(ただし、現行法では画像自体を意匠登録の対象とすることができ、その場合には「画像」が「物品」となります)。
 つまり、形状等が同一でありまたは類似していたとしても、物品が異なっていれば、互いに非類似な別個の意匠と捉えられることがあるわけです。例えば、物品「乗用自動車」の意匠と、物品「自動車おもちゃ」(ミニカー)の意匠とでは、それらの形状等が相似であるか否かにかかわらず、意匠に係る物品が非類似であることから、互いに非類似の意匠となります。
 意匠登録出願を行う際には、対象となる意匠の形状等を図面等により表すだけでなく、当該意匠に係る物品を指定しなければなりません。そして、乗用自動車を物品として指定し意匠登録を受けた意匠権は、自動車おもちゃには及びません。自動車おもちゃの意匠についても排他的独占権を享受したいのであれば、自動車おもちゃを物品として指定した意匠登録出願を行い、自動車おもちゃの意匠権を取得する必要があります。

新規性

 意匠登録出願の時点で既に公知になっている意匠と同一または類似の意匠は、意匠権を取得することができません。公知の意匠とは、日本国内または国外で公然に知られている意匠、及び、頒布された刊行物やウェブサイト等に記載されている意匠を言います。
 原則として、意匠登録出願前に意匠を自ら公開する行為によっても、新規性を喪失し意匠登録を受けられなくなります。意匠登録出願の完了以前に、秘密保持義務を負わない他者(例えば、売り込み相手や委託先等)に意匠を教示することも禁物です。
 ただし、意匠の創作者その他の意匠登録を受ける権利を有する者による公開行為は、その行為から1年以内に出願することで救済され得ます。新たに創作した意匠を採用した製品を試験販売した後で当該意匠を出願するようなことも許容されます。とは言え、やはり公開する前に出願することが基本です。

創作非容易性

 意匠登録出願の時点で既に公知になっている意匠に基づいて、当業者(該当する意匠分野において通常の知識を有する者)が容易に思いつくことのできる意匠も、意匠権を取得することができません。
 典型的には、公知意匠の一部を他の公知意匠に置き換えたに過ぎないものや、複数の公知意匠の単なる寄せ集め、自然物をかたどった意匠、商慣行上の転用(例えば、実物の乗り物をモデルにして作られるおもちゃの乗り物)等が、創作容易であるとして意匠登録されません。

工業上の利用可能性

 意匠法は産業立法であることから、何らかの工業に利用できる可能性を有していない意匠、言い換えれば、工業的手法を用いて量産することのできない意匠は意匠権を取得することができません。
 自然界から採取される天然物、芸術家の手によってなる美術品は、工業上の利用可能性なきものと審断されます。

先願主義

 同一の意匠または互いに類似する意匠について複数の意匠登録出願がなされた場合、出願日の最も早い出願のみが意匠登録されます。

意匠法第3条の2

 また、自己の意匠登録出願よりも出願日が早い他人の意匠登録出願について意匠公報が特許庁より発行された場合、自己の出願した意匠がその他人の意匠の一部分と同一または類似であると意匠登録を受けることができなくなります。
 なお、意匠公報に図面等が明示された意匠は、その公報の発行時点以降は公知の意匠となります。

意匠登録を受ける権利を有する者

 出願して意匠登録を受ける権利は、原始的には意匠の創作者に帰属します。創作者が複数人であれば、皆で共同して出願することができる一方、一部の人間のみで出願することは許されません。
 多くの出願は法人企業が出願人となっておりますが、それは創作者である従業員等から法人企業に意匠登録を受ける権利が譲渡されたということを意味します。
 意匠法には、従業員等とその雇用主との関係を調整する職務創作規定が備わっております。雇用主は、従業員等が創作した職務意匠を実施することができます。さらに、雇用主は、契約や勤務規則等の定めに従い、従業員等が創作した職務意匠について意匠登録を受ける権利を譲り受けることができますが、その場合には従業員等に対価の支払いを受ける権利が発生します。

出願と補正

 出願意匠の新規性及び創作非容易性は、出願時点を基準として審査されます。従って、意匠登録出願の願書、図面等の補正は、出願当初の願書、図面等に既に記載されている範囲の中でしか行うことができません。新規な事項を後から追加することは許されないのです。
 願書及び図面等の内容は十二分に吟味されなければならず、産業財産権制度に精通し出願手続に熟達した者がこれら書面を作成することが望ましいです。

審査

 意匠登録出願は、出願手続を完遂すれば自動的に審査の対象となります。出願審査請求手続は不要です。

権利の存続

 出願が審査を通過して登録査定を得た後、最初の1年分の登録料(年金)を特許庁に納付することにより、特許庁が管理する意匠原簿に意匠権の設定の登録がされます。
 意匠権は、意匠原簿への登録によって発生し、出願日から満25年経過を以て満了します。
 ただし、登録料を特許庁に納付し続けないと、権利が中途で消滅します。
 意匠権が発効すると、その登録意匠の内容を公示する意匠公報が特許庁より発行されます。

公開

 上述した通り、意匠登録出願の内容は、意匠権の設定の登録がなされた暁には意匠公報の形で公開されます。
 逆に、意匠権が付与されない意匠登録出願の内容は、特許庁において秘匿され、公開されません。
 ただし、同一の意匠または互いに類似する意匠について同日に複数の意匠登録出願があり、各出願人間で誰を意匠権者とするかの協議が成立しなかった場合に限り、それぞれの出願の内容が協議不成立意匠出願公報の形で公開されます。

秘密意匠

 原則として、意匠公報には意匠を表した図面、写真、ひな形または見本が掲載されるのですが、実際の製品の発売までは具体的な意匠を秘匿しておきたいという場合もあります。
 このようなニーズに応えるべく、出願人の請求により、意匠を表す図面等の公開を、意匠登録の日から最大3年間遅らせることができます。これが秘密意匠です。
 秘密意匠であっても、意匠登録後に意匠公報の発行はなされるのですが、この公報には意匠を表す図面等が添付されておらず、どのような意匠であるのかは明らかになりません。
 意匠を秘密にしておくべき期間が経過したときには、当該意匠を表す図面等が掲載された公報が再度特許庁より発行されます。

便利な制度でガッチリ守る

※特許庁「意匠権」パンフレット(平成21年2月)から一部抜粋

権利の無効

 特許庁といえども万能ではありませんので、本来意匠登録を受けることができない理由(例えば、出願意匠が新規性または創作非容易性を備えていない等)があるにもかかわらず出願が審査を通過して意匠登録されてしまうことがあります。
 このような意匠登録は、無効理由を内包するものとされ、侵害訴訟において権利を行使することができません。
 並びに、無効理由を内包する意匠登録は、特許庁に無効審判を請求して消滅させることも可能です。

属地主義

 日本国特許庁に出願して取得した意匠権の効力は日本国内に限定され、国外には及びません。意匠制度は国または地域毎に存在しており、外国において意匠権を取得したい場合には当該国の特許庁(に該当する官庁)に意匠登録出願をする必要があります。
 ただし、日本国内への輸入物、日本国内からの輸出物に対しては、日本国で取得した意匠権を行使できます。

海外からの模倣品流入に対する規制の強化

 加えて、意匠権(または、商標権)を侵害する品の輸入行為に対しては、それが専ら個人が自己で使用する目的の個人輸入であったとしても(日本国内で当該品を販売等する目的でなかったとしても)、税関においてこれを差し止め、当該品を没収等することができます。

特許との兼ね合い

 例えば、しゃもじの表面に凹凸形状を成形することによって米粒がこびり付きにくくなる効果が生まれるのであれば、“表面に凹凸形状を成形して米粒を付きにくくする”という技術のアイデアを特許出願することができます。
 同時に、表面の凹凸形状が審美観に訴えかけるものである場合には、当該しゃもじを意匠登録出願することもできます。
 上記のように、同一の事物について、特許出願と意匠登録出願との両方を行い得るケースは珍しくありません。
 意匠権の客体である意匠は、特許権の客体である発明と比較してその把握が容易であります。それゆえ、外国から輸入されるデッドコピー品の税関における水際差止等では、特許権以上に意匠権が有効な武器となり得ます。
 また、これは米国の事例ですが、スマートフォンを巡るアップルとサムスン電子との争訟において、サムスン電子がアップルに対して多額の損害賠償金を支払うべき旨の判決が下された事例があります(最終的に和解終了)。その損害賠償金額の算定には、意匠権(design patent)及びトレードドレス(日本における立体商標に近い)が大きな影響を及ぼしたと言われております。この一事によっても、意匠権の価値、重要性は明らかです。

不正競争防止法による物品形態の保護

 意匠法以外に工業デザインを保護する法律として、不正競争防止法が存在します。即ち、日本国内において最初に販売された日から起算して三年を経過していない他人の商品について、その商品の形態を模倣した商品を譲渡、貸与、輸入、輸出等した者は、不正競争防止法違反を理由として民事及び/または刑事責任を負うこととなります。
 ここで、模倣とは、他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことを言います。
 他人の商品の形態に接することなく独自に商品を作り出した場合、その形態が結果的に他人の商品の形態と同一となったとしても、不正競争防止法第2条第1項第三号の物品形態の保護規定の違反には当たりません。
 これに対し、意匠権の侵害者は、たとえ意匠権の存在や内容を知らなかったとしても、侵害行為についての責任を免れ得ません。

不正競争防止法による商品等表示の保護

 加えて、商品自体や商品の容器、包装等のデザインが、特定の者の業務に係る商品または営業を表示するものとして需要者の間に広く認識されるに至った暁には、当該商品等のデザインもまた、不正競争防止法第2条第1項第一号または第二号を根拠とする保護を受けることができる場合があります。