特許制度の概要


発明

 特許法の保護対象は発明です。発明とは、自然法則を利用した技術的思想即ち技術のアイデアを言います。
 発明は、物の発明、方法の発明、物の製造方法の発明に類別されます。


発明の分類

 自然法則を利用しないもの、例えば、純然たるビジネスモデルやゲームのルール、暗号のアルゴリズムそのもの等は、特許法上の発明に該当しません。
 ただし、ビジネスモデルの実現のために使用するシステム、ゲームにおいて使用する道具、暗号化/復号化プログラム等は、特許法上の発明となり得ます。

特許法の目的

 特許法の目的は、発明を奨励するとともに技術上の秘密の公開を促し、以て産業の発展に寄与することです。
 先進技術の情報公開に対する代償として一定期間の独占権を付与するというのが特許法の根幹です。技術の革新は積み重ねによって成し遂げられます。技術情報が広く公開されれば、その技術を改良した改良技術の開発や、その技術を応用した応用技術の開発に少なからず寄与します。また、複数の者が別々の場所で同一技術の開発に注力する重複投資を避けることもつながります。しかし、技術情報の公開は競業者による模倣、そして市場競争の激化を招きますから、有益な技術については誰しもができる限り隠匿しようとするでしょう。このような情理に逆らい、技術上の秘密を積極的に開示するインセンティヴを与えようという考えが、特許制度の根底にあります。
 また、発明を完成させるために費やされる研究開発投資の回収機会を与えるという趣旨もあります。最も顕著な例は、医薬品です。一つの新薬の完成には数百億円が投じられるとされておりますが、完成した薬の複製にはそれほどのコストは要しません。新薬が特許法による保護を受けられないと仮定すれば、莫大な金銭負担をした開発企業と、金銭を投じていない他の企業とが市場において対等に価格競争をすることとなり、開発企業は到底投資を回収できないでしょう。となれば、誰も新薬を開発しない/できない状況に陥ってしまうことになりかねません。

特許権

 特許権者は、業(非営利目的の事業を含む)として特許発明を実施する権利を専有します。
 特許権者は、特許発明を実施する権利を他者に許諾(ライセンス)することもできます。
 特許権は他者に譲渡でき、質権設定の対象ともなり得ます。

調和

 特許法は、技術のアイデアについて有限期間の排他的独占を認める法であり、自由市場経済の原則に穴を開けるものです。それゆえ、特許法によって招かれた過剰な保護が、却って産業の発展を妨げてしまうおそれが常にあります。
 特許法には、特許に値しないものが特許されないようにする仕組みが備わっています。即ち、特許を受けようとする者は、発明の内容を実施可能な程度充分に記載した書面を提出する出願手続を行わねばなりません。しかも、その特許出願が特許庁における審査を通過してはじめて特許権が付与されます。

新規性

 特許出願の時点で既に公知になっている発明と同じ発明は、特許を受けることができません。公知の発明とは、日本国内または国外で公然に知られている発明、公然に実施されている発明、及び、頒布された刊行物やウェブサイト等に記載されている発明を言います。
 原則としては、特許出願前に発明の内容を自ら公開する行為によっても、新規性を喪失し特許を受けられなくなるという点にご注意下さい。特許出願よりも先に発明に係る製品を発売し、顧客等から高い評価が得られたとしても、新規性の不備により特許を取得することが不可能となります。特許出願の完了以前に、秘密保持義務を負わない他者(例えば、売り込み相手や委託先等)に発明の内容を教示することも禁物です。
 ただし、平成24年4月1日に施行された(平成23年改正)特許法第30条の規定により、日本国においては、発明者その他の特許を受ける権利を有する者がした行為に起因して公知となった発明は、その公知となった日から6ヶ月以内に出願することで救済されるようになりました。
 とは言え、自己が発明を公開してから特許出願をするまでの間に、善意の第三者が同等の発明を特許出願することもあり得ます。その場合、善意の第三者が先願、自己が後願ということになりますので、後述する拡大された先願の地位の規定である特許法第29条の2に則り、自己が特許を受けられなくなってしまうおそれがあります。
 また、欧州特許法には、上記のような新規性喪失の例外規定は存在しません。従って、自己の発明の公開行為により、欧州特許は受けられなくなります。中国特許法でも、新規性喪失の例外規定の要件が日本国特許法と比べて厳しく、自己の発明の公開行為により、中国特許を受けられなくなる蓋然性が高いです。
 やはり、公開する前に特許出願することが基本です。
 ちなみに、競業者の特許出願または特許権を無効化するための戦術の一つとして、発明者の姓名をキーワードとして論文データベース等を検索することも行われているようです。

進歩性

 特許出願の時点で既に公知になっている発明に基づいて、当業者(該当する技術分野において通常の知識を有する者)が容易に思いつくことのできる発明も、特許を受けることができません。
 典型的には、複数の既知発明の単なる寄せ集めや、最適材料、最適数値の選択等が当業者の通常の創作能力の発揮であるとされており、このような発明は他に進歩性の存在を推認できる根拠がない限り特許されません。
 もっとも、特許実務に携わらない方が想像なさっているほど高度な技術的進歩性が要求されているわけではありません。進歩性要件のハードルが高すぎれば、どの出願も特許されないということになり、結局は特許制度が存在していないのと同じになってしまいます。また、コロンブスの卵のような発明は特許に値するものでもあります。
 出願発明が一見すると公知発明に類似していたり、複数の公知発明を組み合わせることで容易に出願発明に想到するように感じられたりしたとしても、その出願発明が公知発明とは異質の効果を奏する場合、または、同質の効果であるが際だって優れた効果を奏する場合には、進歩性の存在が推認され、特許を取得できることがあります。

産業上の利用可能性

 特許法は産業立法であることから、何らかの産業に利用できる可能性を有していない発明は特許を受けることができません。
 医療は、日本国の現行特許法においては産業ではないと解釈されており、治療方法、診断方法等は産業上の利用可能性なしとして特許されません。
 ただし、医療用の器具や医薬品等は、製造業、製薬業に利用されるものとして特許の対象です。

ビジネスモデル特許(ビジネス方法特許)

 ビジネスモデル特許に関しては、かつて種々の疑義があり、例えば「ありふれた商売の仕方でも、先に出願すれば特許が取れる」という声や「ビジネス手法自体が斬新であればそれだけで特許になる」といった意見を見聞することがありました。しかし、これらは何れも誤謬を含みます。
 日本国では、ありふれた商売の仕方は勿論、斬新なビジネス手法であっても、コンピュータその他の具体的なハードウェア資源を利用した上でソフトウェアの情報処理が実現されていないもの(典型的には、専ら人手によるビジネスの方法等)については、特許法上の発明即ち自然法則を利用した技術思想の創作に該当しないと判断され、特許を受けることができない可能性が高いです。
 ただし、特許法による保護の対象となるか否かについての判断基準は国毎に異なっており、日本国では特許対象とならないが米国では特許対象になるというようなことはあり得ます。
 上記に加えて、ありふれた商売の仕方を既知の通常の手法を以て自動化・ネットワーク化しただけでは、新規性または進歩性がないとして出願が拒絶されることになります。ありふれた商売の仕方に関して特許を取得するには、その商売の仕方をコンピュータシステムやインターネットに適用するにあたり、一定の工夫がなされている必要があります。
 ビジネスモデルに係る発明は二つの部分、即ち、ビジネスモデルの部分(非技術的部分)と、そのビジネスモデルをコンピュータやネットワーク等の技術要素を用いて実現する部分(技術的部分)とから成り立っています。ビジネスモデル特許出願が特許として認められるためには、少なくとも、ビジネス方法の部分または実現技術の部分の何れかに、出願時における新規性及び進歩性を有している必要がある、という考え方が有力です。
 1)公知のビジネス方法を、単にコンピュータを用いて実現するに過ぎない場合
     →進歩性はないと判断されます。
 2)公知のビジネス方法であるが、コンピュータシステム化にあたって特に工夫してある場合
     →進歩性があると判断されます。
 3)新規なビジネス方法を、単にコンピュータを用いて実現するに過ぎない場合
     →進歩性があると判断される余地があります。
 4)新規のビジネスの方法であり、コンピュータシステム化にあたっても特に工夫してある場合
     →進歩性があると判断されます。

先願主義

 同一の発明について複数の特許出願がなされた場合、出願日の最も早い出願のみが特許されます。同様に、同一の発明について特許出願と実用新案登録出願とがなされた場合にも、出願日が早い方にのみ権利が付与されます。これが先願主義です。

拡大された先願の地位

 特許出願または実用新案登録出願について、公開特許公報、特許公報(特許掲載公報)または登録実用新案公報(実用新案掲載公報)が特許庁より発行された場合には、当該出願の出願日よりも後の日に出願された他人の特許出願または実用新案登録出願であって、上記の公報に記載されている発明について保護を受けようとするものに権利が与えられなくなります。これを、拡大された先願の地位(準公知)と言います。つまり、特許出願または実用新案登録出願をすることにより、翌日以降の他人の出願及びその独占権利化を排除することができるのです。
 公開特許公報、特許公報または登録実用新案公報に記載されている発明は、それら公報の発行時点以降は公知の発明となります。

特許を受ける権利を有する者

 出願して特許を受ける権利は、原始的には発明者に帰属します。発明者が複数人であれば、皆で共同して出願することができる一方、一部の人間のみで出願することは許されません。
 多くの出願は法人企業が出願人となっておりますが、それは発明者である従業員等から法人企業に特許を受ける権利が譲渡されたということを意味します。
 特許法には、従業員等とその雇用主との関係を調整する職務発明規定が備わっております。雇用主は、従業員等がした職務発明を実施することができます。さらに、雇用主は、契約や勤務規則等の定めに従い、従業員等がした職務発明について特許を受ける権利を譲り受けることができますが、その場合には従業員等に対価の支払いを受ける権利が発生します。

出願と補正

 出願発明の新規性及び進歩性は、出願時点を基準として審査されます。従って、特許出願の明細書、特許請求の範囲または図面の補正は、出願当初の明細書、特許明細書または図面に既に記載されている範囲の中でしか行うことができません。新規な事項を後から追加することは許されないのです。
 明細書、特許請求の範囲及び図面の内容は十二分に吟味されなければならず、産業財産権制度に精通し出願手続に熟達した者がこれら書面を作成することが望ましいです。

審査

 特許出願は、その出願手続を済ませただけでは審査されず、特許を取得できません。特許庁の審査を受けるには、出願審査請求という別個の手続を行う必要があります。
 出願審査請求は、出願日から満3年が経過するまでの間、行うことができます。
 特許庁に納付する手数料のうち、出願手数料は比較的安価ですが、出願審査請求手数料は最低でも12万円以上します(2011年8月1日現在。ちなみに、以前は17万円以上しましたが、引き下げられました)。
 出願審査請求手続をしても、ただちに審査が始まるわけではありません。実のところ、特許庁には審査待ちの出願案件が大量に溜まっており、出願審査請求から2年以上待たされることも珍しくありません。
 なお、早期審査制度、優先審査制度を利用して、審査着手の順番を繰り上げて貰うことも可能です。現状、早期審査または優先審査の対象となった出願は、数ヶ月以内に審査結果がもたらされております。

出願公開

 特許出願の内容は、特許を取得できるか否かにかかわらず、出願日から1年6ヶ月が経過した後に特許庁によって公開されます。この公開は、公開特許公報の発行という形でなされます。
 逆に言えば、出願日から1年6ヶ月が経過するまでは特許庁において秘匿されます。
 出願人自らが出願公開請求を行えば、出願日から1年6ヶ月が経過する以前に公開特許公報が発行されます。
 なお、公開特許公報は特許公報とは別物であり、公開特許公報に記載された発明に特許が与えられているとは限りません。

権利の存続

 出願が審査を通過して特許査定を得た後、最初の3年分の特許料(年金)を特許庁に納付することにより、特許庁が管理する特許原簿に特許権の設定の登録がされます。
 特許権は、特許原簿への登録によって発生し、出願日から満20年経過(医薬品等の製造販売承認を受けなければ製造販売できない発明に限り、最長で5年延長されることがあります)を以て満了します。
 ただし、特許料を特許庁に納付し続けないと、権利が中途で消滅します。
 特許権が発効すると、その特許発明の内容を公示する特許公報が特許庁より発行されます。

権利の無効

 特許庁といえども万能ではありませんので、本来特許を受けることができない理由(例えば、出願発明が新規性または進歩性を備えていない等)があるにもかかわらず出願が審査を通過して特許されてしまうことがあります。
 このような特許は、無効理由を内包するものとされ、侵害訴訟において権利を行使することができません。
 並びに、異議・無効理由を内包する特許は、特許庁に特許異議申立(平成27年度より)を行うか無効審判を請求することによって消滅させることが可能です。
 特許権を行使する場合、他人に実施許諾を与える場合、他人から実施許諾を得る場合、または、他人から特許権を侵害している旨の警告を受けた場合においては、特許権の有効性(あるいは、無効性)を確かめるべく、先行技術調査を行うことが有益であります。

属地主義

 日本国特許庁に出願して取得した特許権の効力は日本国内に限定され、国外には及びません。特許制度は国または地域毎に存在しており、外国において特許権を取得したい場合には当該国の特許庁(に該当する官庁)に特許出願をする必要があります。
 ただし、日本国内への輸入物、日本国内からの輸出物に対しては、日本国で取得した特許権を行使できます。