地域団体商標
地域団体商標制度は、商標制度を補完するものです。ここでは、地域団体商標独自の規定について触れます。商標制度の概要と併せてご覧下さい。
対象となる商標
地域団体商標登録の対象となる商標は、以下の通りです。
・地域の名称と商品若しくは役務の普通名称とを組み合わせて普通に用いられる方法で表示する商標。例えば、「京」と「つけもの」とを組み合わせた「京つけもの」
・地域の名称と商品若しくは役務の慣用表示とを組み合わせて普通に用いられる方法で表示する商標。例えば、「京都・清水」と焼物について慣用される「焼」とを組み合わせた「京都・清水焼」
・地域の名称と普通名称または慣用表示との組み合わせに、産地または提供場所を表示する際に付される文字を追加した商標。例えば、「京都」及び「千枚漬」に「名産」を付した「京都名産千枚漬」
ただし、既に全体として普通名称化してしまっているもの、例えば「伊勢海老」や「薩摩芋」等は、地域団体商標登録の対象とはなり得ません。
また、地域団体商標は何れも、文字のみから成り立ちます。識別標識として機能する(識別力を発揮する)独自のマーク等が付されている商標は、地域団体商標登録の対象となりません(通常の商標登録出願により商標権を取得することは可能です)。
地域団体商標制度の趣旨
地域団体商標制度の趣旨は、需要者の間で知名度を有するようになった地域ブランドの信用を保護し、地域産業の活性化や地域おこしを促進することにあります。
従来、上に述べた「地域の名称」+「商品または役務の名称」のような商標は、商品の産地や販売地または役務の提供場所を普通に表示するものに過ぎず、自他商品または役務の識別機能(識別力)を発揮し得ない商標であるとして、商標法第3条第1項第三号に該当して登録を受けられませんでした(なお、今日においても、このような商標を地域団体商標でなく通常の商標として出願した場合には、当該商標が何人かの業務に係るものとして全国的に周知となっていない限り登録を受けられません)。
しかしながら、地域の複数の事業者の努力によって差別化が図られ、付加価値が高められた地域ブランドが商標法による一切の保護を受けられないとすると、その信用に便乗しようとする他者が地域外の商品や役務、または品質の低い商品や役務に同じブランド名を使用することを許すことになり、地域ブランドの信用が毀損される事態が生じるおそれがあります。
そこで、地域ブランドに多く用いられる、地域の名称と商品または役務の名称とを組み合わせた文字商標について、一定の要件の下、地域団体商標としての登録を与え、これを保護する制度が新設されました。
特許庁のウェブサイトに、地域団体商標の登録事例が紹介されております。京都府における地域団体商標の登録件数は、都道府県別で第一位です(令和5年8月時点)。
出願及び登録の主体
本来は商標登録による独占権を与えるべきでないとされる記述的商標に、地域団体商標としての登録を認めるという事情から、地域団体商標権を取得することのできる主体は制限されています。即ち、
・事業協同組合等の特別の法律により設立された事業協同組合、農業協同組合、漁業協同組合その他の法人格を有する組合(当該特別の法律において、正当な理由がないのに、構成員たる資格を有する者の加入を拒み、またはその加入につき現在の構成員が加入の際に付されたよりも困難な条件を付してはならない旨の定めのあるものに限る)
・商工会
・商工会議所
・特定非営利活動(NPO)法人
・上記の何れかに相当する外国法人
のみが、自団体またはその構成員に使用させる商標について、地域団体商標登録出願を行うことができます。
個人や法人格を有さない団体、設立根拠法において加入自由の定めのない組合(農事組合法人等)、株式会社等は、地域団体商標出願を行ってその商標権者となることができません。
商標の周知性
加えて、地域団体商標として登録を受けるためには、その対象となる商標が、使用をされた結果として、出願人である団体またはその構成員の業務に係る商品または役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている必要があります。
未だ一定の地域以上での周知性を獲得していない商標は、地域団体商標登録を受けられません。
また、対象の商標は周知であるが、当該商標が出願人の団体及びその構成員以外の者による使用によって周知性を獲得している場合にも、地域団体商標登録を受けることができません。一例として、商標「喜多方ラーメン」が挙げられます。「喜多方ラーメン」の出願を巡っては最高裁まで争われましたが、喜多方市内で出願人の組合に加入しているラーメン店が半数弱であり、全国的に知られる有力店が当該組合に加入していない事実から、当該組合による地域団体商標登録出願に対する拒絶審決が確定しました。