実用新案制度の概要


 実用新案権制度は特許制度を補完するものと言えます。実用新案法の目的も特許法のそれに等しいです。ここでは、実用新案権法独自の規定について触れます。特許制度の概要と併せてご覧下さい。

考案

 実用新案法の保護対象は考案です。考案は、発明とほぼ同義です。
 ただし、実用新案法では、物品の形状、構造または組合せに係る考案に対してのみ実用新案権を付与します。方法の考案、物の製造方法の考案は実用新案登録されません。化学物質やソフトウェア・プログラム等も同様に実用新案登録されず、これらの保護を求めるならば特許出願するより他にありません。

実用新案権

 有効な実用新案権は、有効な特許権と同等の効力を発揮します。即ち、実用新案権者は、業(非営利目的の事業を含む)として登録実用新案(実用新案登録を受けた考案)を実施する権利を専有します。
 実用新案権者は、登録実用新案を実施する権利を他者に許諾(ライセンス)することもできます。
 実用新案権は他者に譲渡でき、質権設定の対象ともなり得ます。

無審査登録主義

 特許法とは異なり、無審査登録主義をとります。実用新案登録出願は、実体的内容が審査に付されることはなく、方式上の瑕疵がなければそのまま特許原簿に登録されます。


実用新案登録出願の無審査登録

 もっとも、出願を審査しないからといって、どのような考案にも権利を与えるというわけではありません。特許の場合と同様、新規性や進歩性、産業上利用可能性等の条件を満たさないものは、本来保護に値しないのです。
 にもかかわらず、審査を行わないために、新規性や進歩性を備えていないような考案も実用新案登録され、形式的には実用新案権が発生します。
 しかし、このような実用新案権は無効理由を内包したものとなるため、たとえ同一の考案に係る製品を製造、販売等する者に対しても権利を行使することはできず、無効審判によっても消滅します。

権利の存続

 実用新案登録出願では、出願手続とともに最初の3年分の登録料(年金)を特許庁に納付します。既に述べた通り、出願に方式の瑕疵がなければ、特許庁が管理する特許原簿に実用新案権の設定の登録がされます。
 実用新案権は、特許原簿への登録によって発生し、出願日から満10年経過を以て満了します。
 ただし、登録料を特許庁に納付し続けないと、権利が中途で消滅します。
 権利の発生、即ち特許原簿への登録までに要する時間は、出願から半年程度です。これは、審査を要する特許出願と比べてかなり早いと言えます。このため、実用新案権は、ライフサイクルの比較的短い製品を保護するのに向いています。
 実用新案権が発効すると、その登録実用新案の内容を公示する登録実用新案公報(実用新案掲載公報)が特許庁より発行されます。

実用新案技術評価制度

 予め審査を経ていない実用新案権は、有効性に疑義があると言えます。それゆえ、実用新案権者は、実用新案権を行使する前に、特許庁に実用新案技術評価を請求して実用新案技術評価書を作成して貰い、その技術評価書を相手方に提示して警告を行わなければなりません。
 実用新案技術評価は、特許出願の審査に近いものです。

権利行使のリスク

 実用新案権者が相手方に警告しまたは権利を行使した場合において、無効審判の結果実用新案登録を無効にすべき旨の審決が確定したときには、その元実用新案権者が、警告または権利行使によって相手方に与えた損害を賠償する責任を負います。
 ただし、実用新案権の有効性を否定しない見解の実用新案技術評価書に基づいて警告または権利行使をしたとき、その他相当の注意を払った上で警告または権利行使をしたときには、損害賠償責任は発生しません。
 上記は特許権の行使にはないリスクであり、実用新案登録出願または実用新案権の行使にあたり予め承知しておくべき事項であります。

実用新案登録に基づく特許出願

 既に実用新案権の設定の登録がされている実用新案であっても、原則としてその実用新案登録出願日から満3年が経過する前であれば、当該実用新案登録に基づいた特許出願をすることができます。
 実用新案登録に基づく特許出願は、実用新案登録出願日に出願されたものと見なされます。
 ただし、この特許出願を行う場合には、取得した実用新案権を放棄する必要があります。